和歌と俳句

高浜虚子

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小諸とはの裾野に家二千

踏石に明らかや庭の面

寝るまでは明るかりしが月の雨

提灯にもろこしをふと人かとも

もろこしにかくれ了せし隣かな

草庵はただもろこしに風強し

秋晴や寒風山の瘤一つ

秋晴や陸羽境の山低し

客と居る小諸山廬の天高く

秋扇を持ち垂らしをり膝抱いて

向う家の秋の簾も垂れしまま

帰りけりこれより案山子こしらゆと

お神楽や世話人何か立ち廻り

ほつほつと家ちらばりて秋野かな

颱風の来るの来ぬのと稲の花

酒折の宮はかしこや稲の花

湯を出でて秋風吹いて汗も無く

古城址は大きからねど秋の風

水鉢にかぶさりのうねりかな

秋風や静かに動く萩芒

千年の秋の山裾善光寺

物浸けて即ち水尾や秋の川

百丈の断崖を見ず野菊見る

野菊東尋坊に咲きなだれ

病む人に各々野菊折り持ちて

爽やかに衆僧読経の声起り

寺なれば秋蚊合点廁借る

赤く旅情漸く濃ゆきかな

鳥渡る浜の松原伝ひにも

生けて配膳青き畳かな

汽車を見て立つや出水の稲を刈る

濃紅葉に涙せき来る如何にせん

一枚の紅葉且つ散る静かさよ

この杖の末枯野行き枯野行く

柳散り蓮破れお濠尚存す

伊賀の客名古屋の客や秋祭