和歌と俳句

三橋鷹女

魂痩せて真冬の夢を見つづけし

人は喪に真冬のいろを上げし石蕗

笹鳴に逢ひたき人のあるにはある

笹子鳴きこの帯留が気に入らぬ

短日の燃ゆるひとみのギター弾き

短日や我れもこころのギター弾き

凍てを行き兵を思へり誰もが思へり

凍ての道いくさのことは口に言はず

暖炉燃え牡丹雪とはかかるもの

粉雪受話器をながれ来たるこゑ

水涸れて人は祷りのあかつきを

水涸れて日月人を隔てけり

石蕗咲くと凡俗出でて彷徨へる

咲き溢る八ツ手籬を出でざりき

冬来る高階の扉の押せば開き

初冬の高階に住みて人胃弱

高階を人と降り来て冬夜の灯へ

野は初冬少年の歩に合はせ歩し

簷凍てて我が誕生の日に遭へり

大年のしろき障子にゐて想ふ

大年の燈の燦々と子のねむり

機翼現れ吾子の口笛北風に和す

北風駈る草原吾子を駈らしめ

少年に別るる吾子となりて北風

冬野来て吾子の背丈の低くはなし