和歌と俳句

片山桃史

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兵隊の街にふり手紙くる

戦病死せるを葬るや風ふく日

凍てうるむ眼のいとけなき初年兵

夕焼の黄金のきびしき慰霊祭

慰霊祭をはりて葱を刻みゐる

兵隊の街に風ふき兵酔へり

射ちつくし壕すてざりし屍なり

枯原に円匙いつぽん立てゝ死ねり

枯原をわがふみ戦いまだ歇まず

忍従の兵這ひ泥土馬を喰ふ

ごうごうと風の底ひに担架まつ

あきのかぜ水筒に鳴り天に鳴り

秋風よ追撃兵は疲れたり

乙女星春の大地が背に冷ゆる

軒かげに逃げられてみなもどろめり

雷雲の上に臥しなほ撃ちあへり

もりあがり地平のしかゝりくる苦熱

一戦は射ち我れ飯を啖ひ梅を噛む

流れ弾とべり軽傷兵饒舌

枯原に医笈の赤十字血の綿など

枯原に軍医の眼鏡厚かりき

夕日あび担架舁きくるは遮蔽せず

掃蕩は風の杳かに移りつゝ

殺戮の涯し風ふき女睡れり

この涯に彩なく睡る顔うごかず

風に揺れかゝるさびしき灯をしらず

銃背負ふ騎兵傾け雨しぶく

尖兵がゆき俘虜がゆき冷雨なり

しらじらと暁けぬ雨中を咳きゆきぬ

冷雨なり二三は遺骨胸に吊る

冷雨なり眼つむり歩く兵多し

兵鬱勃狼狽の雨河を打つ

雨の河担架はひとつづゝ渉る

汗し病み春は襟章を目に愛す

汗し病み母よ黄天に風呂溢る

黄天よ祖国よ毛布かぶり病む

汗し病み馬肉煮る日の蹠

汗し病み黄天に背に撒水車

うすあかうほとりは春の唇死ねり

ひと死ねり旗にぎやかな春の街

ひと死ねり襟章は軍医礼を受けず

ひと死ねり黄天に手紙くばりゐる

ひと死ねり朝食の喇叭黄天に

ひと死ねり兵器手入れの兵裸体

ひと死ねり御勅諭を読む日課なり