和歌と俳句

下村槐太

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夜涼かな棒高跳に刻うつり

夕顔におのれを審く書の白さ

天の河ひとらが夢に夏寂びつ

女優ゆき甘藍畠いろ強き

夕雉子すずし兵らの飯も了へぬ

青葉木菟兵らのねむり浅からぬ

薔薇あぢさゐ木苺の花酒保の雨

厦灼けぬなにか憤しく灼けぬ

ノータイやひとりリフトの客となる

扇風機あり休めあり吾を待たす

夏日かも事務執る音のああしづか

かへりみる厦灼けて虚に充ちぬ

文学もかなしネオンの赤き

文学はかなし夜ごろに蟇啼けば

寄席囃子聞のよろしと河鹿飼ふ

しらたまは昼につくりて河鹿飼ふ

ぜんざいに夏永かりしわがつかれ

白玉のとろりとおちよぼなど来ずや

星流れたるとき棕櫚の樹がそばに

しろがねのキヤムプの雫樹は聴けり

赤松に霧降りかぶとむしを拾ふ

を来て言葉規しき牛乳くばり

霧にふれ萱の白緑暁けきりぬ

わたり幽霊の絵をかけながす

金借りにゆく鉄橋の下が枯れ

坂の下まで来て風邪の熱きざす

春暁の肋木の上を船ゆけり

たらの芽に要塞青き日の耀りぬ

壁白くああ大試験とはに済む

艀見ゆ入社試験に来し窓は

ふららこに子を守り父に自由なし

をみてものほろぶことをおもひをる

火蛾を瞻て暗くつたなき性を恥づ

無職日日枯園に美術館ありき

噴泉の裸女の羞恥に墜るか

雪見れば夜に来といふを待ち難き

雪降れば夜は来といひて昼に来ぬ

紐解くになほ天霧し降り来

白し精神の歌の昧きとき

湯を沸かす木垂るの青き辺に

露地の露滂沱たる日も仕事なし

袂には青きバットよ薔薇のみち

雨の女の素足いつか見し

何処なる寂しき椅子か眼にのこる

畳建具妻より古く夏さりぬ

薔薇の情われ三十をすでに過ぎ

薔薇白き夜の獣医たち酔ひしれぬ

茱萸の叢いまこそ白し木の十字架