和歌と俳句

高浜虚子

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一筋道にして十夜の寺の人通り

十銭の焼芋はあまり多かりし

あぢきなき炬燵の夢や占とはん

叱られてもぐりこんだる蒲団かな

うつくしき蒲団わびしき病かな

歳晩の二日になりて事多し

大いなるころがりて縁に消えざる

信心の涙も氷る十夜かな

門前に知る人もある十夜かな

傘棚に古傘多きしぐれかな

柴漬に見るもかなし小魚かな

古濠や氷らぬ方にかいつぶり

足早き提灯を追ふ寒さかな

古著屋の門辺の柳枯れにけり

路地口の貧しき柳枯れにけり

寒潮に河豚の毒を洗ひけり

牡蠣をむく火に鴨川の嵐かな

耳とほき浮世のことや冬籠

蒲団かたぐ人も乗せたり渡舟

小日向に借家をさがす年のくれ

霜やけの手を集めたる火鉢かな

材木に雪積りけり川の中

にとまる鐡道馬車や日本橋