和歌と俳句

山口誓子

一隅

豪雪に寝て髪の毛が白くなる

卒塔婆もて雪除となす奥の院

高きより雪崩れて最上川塞ぐ

降るに貝ふく頬をふくらませ

飛び来し方飛び行く方のみな雪嶺

雪嶺より低くなりゆく吾が機席

海の上飛ぶ雪嶺の加護もなく

親不知雪嶺下り来てここに落つ

北海の清きに花水母

雪解川合ひてしばらく清と濁

満々として雪解川走れずに

市中にて迅速なるは雪解川

残雪は高きにありて雪解川

白湯気の耕耘機亦生きものぞ

燕にて燕尾はつきりさばき飛ぶ

藤垂らす荒瀬と荒瀬との間

焼岳の焼に今年の草青む

キヤムプして大黒鍋を負ひ帰る

流蛍の自力で水を離れ飛ぶ

吾が頭上避けて蛍火通りたり

蛍火を容れ自動車を蛍籠

精霊舟乗せたる酒に傾けり

精霊舟浄土に向ひ湾に沈む

屋根の落ちて地面に激突す

石荒き御垣内まで初詣

髪ながく神を慰む初神楽

悴む手女は千も万も擦る

尼公の遺愛の雛を飾り雛

金泥の雲屏風出て花の雲

眼に捉ふ落花途中の花びらを

春暁の汽笛明石の大門なり

霞の度怪しきホテル霞むほど

半月と凧半月に糸はなし

凧戻り来ぬ九天を直下して