和歌と俳句

山口誓子

一隅

鯉幟折目のつきしまま靡く

キヤムプ畳みて扁平の布となる

登り来し月山雲の香がちがふ

月読の国へ月山より登る

滝川の中行く登山道なれば

登山口鳥居の額の俯向くも

登山道一歩より急天まで急

鯉幟風に折れ又風に伸ぶ

蛍火が流る岩間を通り抜け

眼を凝らす残雪なりや残雪なり

残雪も寄り合ふ谷の寄り合ひに

雪渓にゐしただ一人忘られず

好きなもの高嶺にもあり蠅たかる

襞あればそこにて青嶺雲作る

三つ青嶺裾曳く一つ裾野なり

自らを主として三座とも青嶺

山上湖掌にて平して舟遊び

水を脱ぎ脱ぎ噴水の直立す

水盤のぐるりにを滴らす

よりも上空を飛ぶ白鳥座

行くにつれ奈良へ退く奈良

出でていまだ五重の塔越さず

西までの天路月にも遙かなり

雲霧遊ぶよ月山の尾根を越え

霧の海琵琶の形と思ひ見る