和歌と俳句

山口誓子

一隅

山坊は時々刻々にに朽つ

霊山を薬の如き通る

穂田しづか生きて動ける四日市

紅葉して山の齢は知りがたし

日向ぼこ光の中に永くゐし

雑多なる貨車歳晩の汽車となり

聖樹の雪落ちしを別の葉に載せる

刈田行く電車の裡も刈田なり

芭蕉忌の流燈湾にみな亡ぶ

芭蕉忌の流燈俳諧亡者ども

持船の絵馬を見に来る初詣

志摩の衆往復歩く初詣

独楽の紐子等はゆつくり巻いてゐる

スキーにて高天ケ原を下り始む

身を冷やすスキーリフトの長丁場

残る吾寒に手ちぎれ足ちぎれ

聖堂に曲がる煙突暖炉焚く

紙漉きの家の雪庇の落ちんとす

信心の鉄鎖もに埋もれて

凍るべき滝を見るいまならずばと

殺生石もこの世のものならず

飛び立つて十字絣の海の

船窓に貼りつく雪の大きな花

みちのくの馬に湯気立つに濡れ

高館に雪その雪を握り潰す