和歌と俳句

長谷川素逝

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円光を著て鴛鴦の目をつむり

日の中のひかりをひいて鴛鴦すすむ

鴛鴦あそぶ水玉水の上をまろび

鴛鴦をつつみてひかりよごれなし

寒に入る夜や星空きらびやか

まよなかの星寒天をあますなし

黝きまで寒紅梅の紅驕る

吃々と牡丹の枯枝日あたれる

もの音に冬木の幹のかかはらず

凍りたる土の日なたのほかになし

はなしごゑ冬木の幹につきあたる

凍土のおのが日なたの日もすがら

現し身をつつみて寒さ美しき

息しろくおのがこころとのみありぬ

といふことばのごとくしづかなり

人来れば障子を開けて出づるのみ

大寒の土日あたりてただありぬ

ゆるむなき二月の冱てを唇に噛む

大寒の日へうつし身をかくすなし

かたくなに根もと日ざさぬ大冬木

しはぶけば四方より幹のかこみ立つ

太幹の裏の寒さのしづかなり

土凍てて日輪のもとあるばかり

水仙の花の日なたも冱ての中

日あたりて冱てのゆるまぬ芽麦かな

麦ふみに風の日輪吹きまがる

寒林のなかにある日のよごれはて

枯れはてしものにある日のやすらかに

空冱てて日輪光を嵌めにけり

寒林の中の人ごゑつきとほる

大寒の日へ麦の芽のたちあがる

日輪と雲と木蓮の芽とうごかず

牡丹の寒芽のふとさねぢまがる

立春の大地をもたげもぐらもち

土の上に春まだとほくあたれる日

春まだきくぬぎ林の幹そろふ

麦の芽に日輪わたりかはりなし

雪嶺に対きて雪解の簷しづく

日輪は空に麦の芽土の上

空の日へ木蓮の芽のこぞるなり

枯枝の中にある日のにぎやかに

笹鳴きに枝のひかりのあつまりぬ

好日の土麦の芽の影とあり

梅いまだ枝のひかりをさしかはす

籾がらを敷きそらまめの芽の日和

木蓮の芽のむさぼれる二月の日

春とほくくぬぎの中の雨の音

梅固し日輪宙に白く錆び

春寒の土かたくなに塵をとめず

柿の木の芽ぶくともなく日あたれる

牡丹んの芽の日あたりてただありぬ

木蓮の芽をふちどりて日のひかり

春めくと枯木の枝の日の微塵

牡丹の芽のおのがじし日あたれる

竹幹のいろ早春の土に立つ

早春のくもりいちにち竹の中

春めくと障子をしめて机にもどる

春を待つこころに雨の土ひかる

春となる藁屋根しづく垂れて降る

春くるとゆふべひとばん降りし土