和歌と俳句

種田山頭火

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泣きつ祈る人の子に落葉そそぐかな

蜜柑山かがやけり児らがうたふなり

落葉やがてわが足跡をうづめぬる

雪をよろこぶ児らにふるうつくしき

風つめたしはろかにまろびゆくものは

枯草ふかう一すぢの水湧きあがる

しくしくと子が泣けば落つる葉のあり

冬木立人来り人去る

雪やみけり一列の兵士ただしく過ぐ

あてもなくさまよふ路の墓地に来ぬ

なつかしやふるさとの空雲なけれ

庭木ほのかな芽をふいて人あらず

かなしき事のつづきて草が萌えそめし

木の芽さびしや旅人の袖に触れけり

ひとりとなれば仰がるる空の青さかな

いさかへる夫婦に夜蜘蛛さがりけり

兵営のラッパ鳴るなりさくら散るなり

若葉若葉かがやけば物みなよろし

泣く子叱る親の声暗き家かな

蚊帳の中なる親と子に雨音せまる

重荷おろす草青々とそよぎをり

打つてさみしさの蠅を見つめけり

炎天の街のまんなか鉛煮ゆ

夜店の金魚すくはるるときのかがやき

暑さきはまる土に喰ひいるわが影ぞ

ま夏ま昼の空のしたにて赤児泣く

放たれしかや夜もすがらともす

夜空濃くゆるがぬ青葉しづくしてけり

桐青しわが子おとなしく遊ぶかな

空の青さ桐の青さそよぐ風かな

逞しき足が踏む過ぐる落葉ふかし

かなしく一人の夜となりけり

雪の中人影の来てやがて消えけり

春日こまやかに墓がならびけり

家が建てらる藪かげの梅咲きにけり

桐が芽をふく街いつぱいの日影かな

県庁の石垣のすみれ咲きいでにけり

監獄署見あぐれば若葉匂ふなり

わが路遠く山に入る山のみどりかな

ねらふ児の顔に日影ひとすぢ

二百十日桐の実のたわわ落ちんとす

ふと頭をあげしに月が出てゐたり

雪解街灯されて人のなつかしき

冴えかへる月の光よ妻よ子よ

日影あふるる湯のなかのわが手わが足