和歌と俳句

芥川龍之介

落葉焚いて葉守りの神を見し夜かな

銀杏落葉桜落葉や居を移す

青鞋のあとをとどめよ高麗の霜

夜をひとり省墓の記書く寒さかな

灰に書く女名前も火鉢かな

ひとり磨く靴のくもりや返り花

笹鳴くや横笛堂の真木林

木枯らしやどちへ吹かうと御意次第

刹竿に動くは旗か木枯か

木枯や東京の日のありどころ

や目刺に残る海の色

黒塚や人の毛を編む雪帽子

拾得は焚き寒山は掃く落葉

風に鳴る松や孤峯の草枯れて

夕波や牡蠣に老いたる船の腹

夕空や凍て杉しんと立てりけり

或夜半の炭火かすかにくづれけり

枯芝や庭をよこぎる石の列

笹鳴くや雪駄は小島政二郎

原稿はまだかまだかと笹鳴くや

胸中の凩咳となりにけり

や大葬ひの町を練る

縫箔の糸に今朝冬の光り見よ

癆咳の頬美しや冬帽子

杉凍てて声あらんとす峡間哉

老骨をばさと包むや革羽織

むだ話火事の半鐘に消されけり

短日やかすかに光る皿の蝦蛄

山鳴りに揺り出されてや赤蕪

柚落ちて明るき土や夕時雨

榾焚けば榾に木の葉や山暮るる

山の月冴えて落葉の匂かな

時雨るるや軒に日残る干し大根

埋火の仄に赤しわが心

時雨るるや灯りそめたるアアク燈

天暗し一本杉や凍てて鳴る

門内の敷石長き寒さかな

枯藪に風あり炭火起す家

風落ちて枯藪高し冬日影

人絶えし昼や土橋の草枯るる

雲遅し枯木の宿の照り曇り

冬空や高きにはたきかくる音

牛込に春陽堂や暑き冬

沢岬の昼や静に草枯るる

凍て杉に声ある夕の谷間かな

空低し一本杉や凍てて鳴る

竹切れば寒き朝日や竹の中

飛び石は斜めに芝は枯れにけり

風すぢの雪吹きあぐる夜みちかな

山峡に竹むら低し風や疾き