いそがしく時計の動く師走哉
凩をぬけ出て山の小春かな
不二を背に筑波見下す小春哉
小春日や又この背戸も爺と婆
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
為朝のお宿と書し寒さ哉
病人と静に語る師走哉
行年を故郷人と酌みかはす
初冬に何の句もなき一日かな
行年を鐵道馬車に追付ぬ
屋の棟に鳩のならびし小春哉
御格子に切髪かくる寒さ哉
鳥居より内の馬糞や神無月
馬痩せて鹿に似る頃の寒さ哉
君が代は大つごもりの月夜哉
乾鮭も熊も釣らるゝ師走哉
魚棚に熊笹青き師走哉
年の尾や又くりかへすさかさ川
ありたけの日受を村の冬至哉
玉川に短き冬の日脚哉
年のくれ命ばかりの名残哉
白足袋のよごれ盡せし師走哉
いそがしい中に子も産む師走哉
羽子板のうらに春來る師走哉
年の暮月の暮日のくれにけり
鉢叩雪のふる夜をうかれけり
穂薄になでへらされし火桶哉
炭竈に雀のならぶぬくみかな
古暦雑用帳にまぎれけり
金杉や二間ならんで冬ごもり
猫老て鼠もとらず置火燵
君味噌くれ我豆やらん冬ごもり
しぐれずに空行く風や神送
鶏もうたひ参らす神迎
達磨忌や混沌として時雨不二
老が歯や海雲すゝりて冬籠
冬籠日記に梦を書きつける
臘八のあとにかしましくりすます
柊をさす頼朝の心かな
手をちぢめ足をちぢめて冬ごもり
凩や自在に釜のきしる音
浄林の釜にむかしを時雨けり
冬の日の二見に近く通りけり
凩や夜着きて町を通る人
とりまいて人の火をたく枯野哉
鮎死て瀬の細りけり冬の川
雪の脚寶永山へかゝりけり
朝霜や藁家ばかりの村一つ
松杉や枯野の中の不動堂
夜廻りの鐵棒はしる霰哉