和歌と俳句

正岡子規

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しぐるゝや弘法死して一千年

白きもの又常盤なりふじの雪

赤煉瓦雪にならびし日比谷哉

親牛の子牛をねぶる霜夜哉

しぐるゝやともしにはねる屋根の漏

灯の青うすいて奥あり藪の雪

むつかしき姿も見えず雪の松

瀧壺の渦にはねこむ霰哉

にはひつくばるや土亀山

引抜た手に霜残る大根哉

角池の四隅に残る氷かな

寒月に悲しすぎたり兩大師

子をかばうふ鶴たちまどふ吹雪哉

浪ぎははさらに横ふくふゞき哉

初雪の瓦屋よりも藁屋哉

ふらばふれ雪に鈴鹿の関こえん

吹雪來んとして鐘冴ゆる嵐哉

関守の雪に火を焼く鈴鹿哉

かるさうに提げゆく鍋の霰哉

曙や都うもれて雪の底

熊笹の緑にのこる枯の

さゝ啼や小藪の隅にさす日影

汽車道の一すぢ長し冬木立

さゝ啼や茂草の奥の松蓮寺

煤拂のそばまで來たり鷦鷯

蝉のから砕けたあとや歸り花

冬の梅裏手の方を咲きにけり

はげそめてやゝ寒げ也冬紅葉

麦蒔やたばねあへたる桑の枝

石原に根強き冬の野菊哉

冬枯の草の家つゝく烏哉

薄とも蘆ともつかず枯れにけり

凩に尻をむけけり離れ

小石にも魚にもならず海鼠

鮭さげて女のはしる師走哉

焼芋をくひくひ千鳥きく夜哉

千鳥啼く揚荷のあとの月夜哉

千鳥なく三保の松原風白し

海原に星のふる夜やむら千鳥

いそがしく鳴門を渡る千鳥哉

一村や皆船頭や磯千鳥

安芸へ行き相模へ歸り小夜千鳥

磯濱や犬追ひ立てるむら千鳥

天地の気かすかに通ふ寒の梅

寒梅や的場あたりは田舎めく

いさり火の消えて音ありむら千鳥

神橋は人も通らず散紅葉

藁屋根にくさりついたるもみじ哉

裏表きらりきらりとちる紅葉

梟や杉見あぐれば十日月