和歌と俳句

篠原鳳作

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天翔るハタハタの音を掌にとらな

秋天に投げてハタハタ放ちけり

ハタハタの溺れてプール夏逝きぬ

颱風をよろこぶ血あり我がうちに

好晴の空をゆすりて冬木かな

筆たのし暖炉ほてりを背にうけ

室咲や暖炉に遠き卓の上

椅子の脚暖炉ほてりにそり返る

うたたねや毛糸の玉は足もとに

冬木影しづけき方へ車道わたる

冬木影戛々ふんで学徒来る

冬木影解剖の部屋にさしてゐる

冬木影解剖の部屋のカーテンに

冬木空時計のかほの白堊あり

おでん喰ふそのかんざせの鋭きゆるき

おでん食ふよ轟くガード頭の上に

おでん食ふよヘッドライトを横浴びに

冬木空大きくきざむ時計あり

大空に風を裂きゐる冬木あり

冬木空するどく聳てる時計あり

冬木あり自動車ひねもす馳せちがふ

氷上へひびくばかりのピアノ弾く

ふるぼけしセロ一丁の僕の

雪晴のひかりあまねし製図室

青麦の穂のするどさよ日は白く

麦秋の丘は炎帝たたらふむ

トマトの紅昏れて海暮れず

トマト売る裸ともしは鈴懸に

太陽を孕みしトマトかくも熟れ

灼け土にしづくたりつつトマト食ふ

月青く新聞紙をしとねのあぶれもの

南風の岩にカンバス据ゑて描く

海描くや髪に南風ふきまろび

向日葵の照るにもおぢてみごもりぬ

枕辺に苺咲かせてみごもりぬ

夕立のみ馳せて向日葵停れる

向日葵は実となり実となり陽は老いぬ

向日葵の照り澄むもとに山羊生るる

向日葵と蝉のしらべに山羊生れぬ

向日葵の向きかはりゆく青嶺かな

向日葵の日を奪はんと雲走る