蝌蚪一人影先立てて泳ぎくる
春潮や生簀曳きゆくポツポ船
風鈴や灯りそめたる櫻島
熔岩の空を流るる蜻蛉かな
秋晴の熔岩につきたる渡舟かな
明月や海に横たふ熔岩の島
熔岩に立ちたる虹の青さかな
鶯を檳榔林に聞きにけり
鶯を檳榔林に聞かんとは
屋根の上にペンペン草やら薊やら
部屋毎にある蛇皮線や蚊火の宿
蛇皮線と籠の枕とあるばかり
炎天や女も驢馬に男騎り
うちかけを着たる遊女や蛍狩
島の春龍舌蘭の花高し
花椰子に蜑が伏屋の網代垣
廻礼も跣足のままや琉球女
鶏合せ古墳の庭に始まれり
浜木綿に流人の墓の小ささよ
港より見えて廓の土用干
芭蕉林ゆけば機音ありにけり
玉巻ける芭蕉を活けてありにけり
短夜の守宮しば鳴く天井かな
破れなき芭蕉若葉の静けさよ
榕蔭の昼寝翁は毒蛇捕り
ハブ捕にお茶たまはるやお城番
ハブ捕の嗅ぎ移りゆく岩根かな
ハブ踊る罠ひつ提げて去りにけり
ハブ穴にまぎれもあらぬ匂かな
両側に甘蔗の市たつ阜頭哉
ハブ壺をさげて従ふ童かな
飲食のもの音もなき安居寺
十方にひびく筧や安居寺
一本の沙羅の香りや安居寺
一痕の月も夕焼けゐたりけり
雨蛙をらぬ石楠花なかりけり
門川のあふれてさみし魂祭
荷のしぎし精霊舟となりにけり
大風のあしたを出でて耕せり