和歌と俳句

篠原鳳作

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鎧戸をすこしかかげてパナマあみ

丁髷を落さぬ老やパナマ編み

干ふんどしへんぽんとして午睡かな

飛魚や右手にすぎゆく珊瑚島

飛魚の翔けり翔けるや潮たのし

飛魚の我船波のあるばかり

飛魚をながめあかざる涼みかな

飛魚のついついとべる行手かな

飛魚や船に追はれて遠翔けり

煙よけの眼鏡ゆゆしや鰹焚き

鰹島魚紋なす波に下りもする

地下室の窓のみ灯る颱風かな

颱風をよろこぶ子等と籠りゐる

秋燕を掌に拾ひ来ぬ蜑が子は

颱風に倒れし芭蕉海にやる

颱風や守居のまなこ澄める夜を

颱風や守居は常に壁を守り

山羊が鳴く颱風の跡に佇ちにけり

帰省子に年々ちさき母のあり

つれだてる老母の小さき帰省かな

月青しかたき眠りのあぶれもの

月青し寝顔あちむきこちむきに

夜もすがら噴水唄ふ芝生かな

なにはづの夜空はあかき外寝かな

颱風のあしたの地のすがしさよ

口に入る颱風の雨は塩はゆし

ハタハタは野を眩しみかとびにけり

唇の色も日焼けて了ひけり

妹が居やことにまつかき仏桑花

独り居の灯に下りてくる守居かな

蛾をねらふ肢はこびゆく守居かな

機窓に鏡のせある小春かな

新糖のたかきにほひや馬車だまり

松蝉が鳴いてゐるなり午前五時

埼々の法螺吹きならす良夜かな

近づけばみな着ふくれてローラ曳き

ひもすがら冬の海みてローラ曳き

ローラーの曳きすててあり芝枯るる

海鳴のさみしき夜学はげみけり

幕あひの人ながれくる花氷

花氷芸題のビラを含みゐる