「考うる葦」のうつしみ月光にあり
噴煙の吹きもたふれず鷹澄める
噴煙を知らねば海豚群れ遊ぶ
噴煙の夜はあかければ鳴く千鳥
行く秋の噴煙そらにほしいまま
よきひげもチョークまみれのピエロ我
晴れし日も四角な部屋にピエロ我
口角を吹くも叱りてピエロ我
いかりては舌のかはきつピエロ我
採点簿いつも放たずピエロ我
月光の衣どほりゆけば胎動を
泣きぼくろしるけく妻よみごもりぬ
みごもりし瞳のぬくみ我をはなたず
爪紅のうすれゆきつつみごもりぬ
おさなけく母となりゆく瞳のくもり
生れくる子にも拝しむとねぎまつる
三角のグラスに青子海を想ふ
咳き入ると見えしが青子詩を得たり
耳たぶの血色ぞすきて瞑想す
咳き入りて咳き入り瞳のうつくしき
氷雨よりさみしき音の血がかよふ
半生をささへきし手の爪冷えぬ
詩に痩せて量もなかりし白き骸
風を追ひ霰を追ひて魂翔けぬ
青麦の穂はかぎろへど母いづこ
陽炎にははのまなざしあるごとし
碧空に冬木しはぶくこともせず
餓えし瞳雪の白さがふりやまぬ
母求めぬ雪のひかりにめしひつつ
罪業の血のうつくしさ炭火に垂らす
ふつふつと血を吸ふ炭火さはやかに
自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ
一握り雪をとりこよ食ぶと云ふ
稚き日の雪の降れれば雪を食べ
神去りしまなぶたいまだやはらかに
雪天にくろき柩とその子われ
黒髪も雪になびけて吾泣かず
吹雪く夜をこれよりひとり聴きまさむ
夕刊の鈴より都霧のわくごとき
吊革にさがれば父のなきおのれ