和歌と俳句

臼田亞浪

帰り咲く木のあり尼僧咳秘むる

雀見ぬ日の久しきに土枯れぬ

寒雷や肋骨のごと障子ある

野空ゆく寒雁をまつ水はあり

竹の脚いよいよ細く霽るる

返り花子らが写生の外に在り

二羽となりて身細うしけり寒雀

はるかなるかな雪屋根に雲浮び

氷砕いて子らの笑へり落つ葉なし

寒禽の声に日当り来ぬ憩ふ

立冬の山の樹騒ぐ音眼にす

門前の日を楽しめば時雨来つ

落つる葉の焚火煙りに吹かれけり

時雨るるや家風呂に入るも十月振

瓦礫なか麦の芽生えて咳きこゆ

風日々に冬至となりし日の黄なり

あけぼのの光げさしふる裸の木

武蔵野の此処に水凝り呼ばふ

日は遠くなり捲き返すの群

わが影の水に沈めばらたつ

藻も枯れてあるがままなる鴨の水

潮騒や木の葉時雨るる夜の路

冬木一本立てる尾上の日を追へり

遠光する野の水や返り花

鶏犬の声す山中の返り花