和歌と俳句

加藤楸邨

洋傘に顎のせて梅雨行くところなし

吾子音読梅雨の点滴逢ひ離れ

つひに戦死一匹のゆけどゆけど

目が並ぶ颱風の夜の軍用車

颱風の車窓青蜘蛛がよこぎれり

颱風下鬱たる巌刻うつる

昼寝覚ひとの歎息を背にしたり

悔の果深夜日輪を汗の目に

昼寝覚夕焼褪めし木に立たれ

青き胡瓜ひとり噛みたり酔さめて

白地着てこの郷愁のどこよりぞ

炎天下くらくらと笑わききしが

梅雨さむく犬が飯食ふわれを見る

昼寝覚思ひ出す名はみなちがふ

くふや生きて還りし目のひかり

満山の秋風鷲に吹きわかる

曼珠沙華すぎこころふと危し

蟻地獄かく長き日のあるものか

梅雨の漏笑へば笑ふ子に囲まれ

炎天の寂しさ虫の鳴くごとき

踏まれたる蜥蜴にいたり思ひ出す

蟷螂に蟷螂のごとくわが手を立つ

枯るる音葭はなれず鰯雲

富士消えて秋草どつと寒くなりぬ