百姓が揚げて手製の凧唸る
泥雲の一所明るし凧若し
凧踊る雲天深く飛行音
屋上に病者の凧の糸短かし
夜半の雨電線の凧溶けたりや
足垂るる電工に雲雀声注ぐ
友とわれ大向日葵の種欲しがる
泥炭の怒る流に梅雨細し
硬山のわらび短し坑夫の妻
毛虫身を反らす半太陽が出る
レール打つ裸梅雨雲切れはじむ
満月の荒野ますぐに犬の恋
大旱のきりぎし海へ砂こぼす
海が打揚げしもの焚く熱砂の上
旱り坂牛の図体登り切る
樫若芽天地旱りに声なき中
西日の中輝く塩を買ひて来し
月も旱り鎖の端の犬放つ
戸を閉めて寝る干梅の力満つ
メーデーの旗を青嶺の下に振る
うつうつと黄砂降る夜の熔鉱炉
男が剪りて持つ九州の鬼あざみ
涜れし夜明けゆく岬松の芯
麦秋や帽燈弱く集ひ来る
東京のホテルがゆがみ冬日ゆがむ