和歌と俳句

西東三鬼

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昭和26年

百姓が揚げて手製の凧唸る

泥雲の一所明るし凧若し

凧踊る雲天深く飛行音

屋上に病者の凧の糸短かし

夜半の雨電線の凧溶けたりや

足垂るる電工に雲雀声注ぐ

友とわれ大向日葵の種欲しがる

泥炭の怒る流に梅雨細し

硬山のわらび短し坑夫の妻

毛虫身を反らす半太陽が出る

レール打つ裸梅雨雲切れはじむ

満月の荒野ますぐに犬の恋

大旱のきりぎし海へ砂こぼす

海が打揚げしもの焚く熱砂の上

旱り坂牛の図体登り切る

樫若芽天地旱りに声なき中

西日の中輝く塩を買ひて来し

月も旱り鎖の端の犬放つ

戸を閉めて寝る干梅の力満つ

メーデーの旗を青嶺の下に振る

うつうつと黄砂降る夜の熔鉱炉

男が剪りて持つ九州の鬼あざみ

涜れし夜明けゆく岬松の芯

麦秋や帽燈弱く集ひ来る

東京のホテルがゆがみ冬日ゆがむ

昭和28年

朝顔を播き崖上の天仰ぐ

早苗挿す日本の背骨の田にかがみ

日本海ほそき夕焼のせて鳴る

北国のやさしき西日前身染めし

梅雨鴉わめきておたまじやくし散る

梅雨晴れ間をんな傾きくしけづる

ひとの子負ひ岩よづ罪の汗垂れて

岩山のてつぺんラムネの玉躍る

明日より試射馬鈴薯の花に蝶舞へり

雄を食ひ終へしかまきり踏みつぶす

鯉うねり池の夏雲成りがたし

昭和29年

枝々に炎ゆる寒星子守唄

世の寒さ傘の柄なれど握り締む

観光船の音楽よごれ春夕べ

病院の春雨鯨肉噛み悩み

露の草抜き来て政に字に嘔き気

蟻の道踏む毛だらけの長脛噛め

雀の子裸で梅雨の溝流る

植ゑし田に映り最も父小さし