縦横の冬の蜜蜂足痿え立て
降りつもる落葉肩まで頭上まで
病み枯れの手足に焚火付きたがる
犬猫と夜はめつむる落葉の家
枯るる中野鳩の声の養生訓
ばら植えて手の泥まみれ病み上り
木枯にからだ吹き飛ぶ悪切り捨て
ぐつたりと鯛焼ぬくし春の星
春の海近しと野川鳴り流る
海南風女髪に青き松葉降らす
神の杉伝いて下る天の寒気
ひよどりのやくざ健やか朝日の樹
死後も犬霜夜の穴に全身黒
餅のかびいよいよ烈し夫婦和し
添伏しの陽気な死神冬日の浜
木枯のひびく体中他人の血
ついばむや胃なし男と寒雀
大寒の富士なり天に楔打ち
寒鴉口あけて呼ぶ火山島
音こぼしこぼし寒柝地の涯へ
地震来て冬眠の森ゆり覚ます
声要らぬ春の雀等光の子
青天に紅梅晩年の仰ぎ癖
人遠く春三日月と死が近し
遺作陽炎によごれ気安し雀らは
鶏犬に春のあかつき猫には死
木瓜の朱へ這いつつ寄れば家人泣く
春の入日へ豆腐屋喇叭息長し
絶句春を病み松の根つ子も見あきたり