舗道の陽は遠退き卓の菊饐ゆる
朱蜻蛉浮きては風の色となる
はたはたの発条強くたなぞこに
掘割を聖誕祭の星つらぬきぬ
靴磨き聖誕祭の紙のかんむりに
花売女聖誕祭をくらく常の処に
照射燈聖誕祭の星を掃きすすむ
さむざむと我らを圧し海彼の書
霙かとパイプを拭ふ友ひとこと
びしよ濡れの闇の象嵌灯が凍る
びしよ濡れの闇のかなたに灯が凍る
白き手のわれら語らず秒冴ゆる
聖燭祭マリヤを知らで母逝きし
ガブリエル天使か北風に喇叭吹く
せまりくるは飢か睡魔かみぞる夜の
ボロボロのパン屑獲たりみぞる夜の
煖炉燃えよき座恋敵すでに在り
恋敵の厚き外套眼にぬすむ
わが酒をうばふかひなの寒からぬ
冬薔薇むしり啖ひてわが酔へり
こほる夜の星ホテルのラムネよし
けふよりの春婦に床板の靴みだれ
灯まぶし処女のかぎりなきおそれ
夏の夜のシヤンパンの酔青かりし
海焼けのひろき胸なり名も知らぬ
雪の夜のアブサン腐肉燃えてきし
けだものに与へて悔ひず滅ぶる身
世に敗れ夜天の春をいまぞ知る
窓々の灯にひと住めり春の夜の
暖かき茶を恋ひ石につまづきぬ
なほさむき夜を獣めく影とゆく
み空ゆく雲のけものよ青の朝
失へるナイフや錆びん青の朝
青の夜の森に妖しの鳥たはれ
青の夜の房の隅々みるおそれ
地球儀を辷る蛾の影青の夜の
犬養毅撃たれわが誕生れ今日五、一五
亡父亡母よわれ生きてあり今日五、一五
空にごる街あゆみつかれ今日五、一五
道につぶれわが干支の鼠今日五、一五