飯田蛇笏
雪峡
春陰や陵墓のつつじ遅れ咲く
滋賀の雨花菜つづきに竹の秋
五百重山雲みだれては春驟雨
瀬田川の屋形をこめて春驟雨
葦の水真澄みに杉菜涵りけり
なきひとのおもかげにたつ麦青し
苔咲きて幻住庵趾椎の雨
芽牡丹やみつのごとくに御所の雨
樹々すきて旭さす獣園山つばき
屑鐵にカラタチの咲く春驟雨
兒とともに海の料亭春の旅
森鬱とゆくてにちかむ炎暑かな
黴あをし財吝しむもの愛をさへ
炎昼の雲きそひたつ青胡桃
暁けしらむ青蚊帳に婦のねしづみぬ
草ざしに渓魚二三尾夏休暇
驟雨やむ屋形にはやき琵琶の浪
傘さして梅雨にしたしき芭蕉像
高原の夜に入る天の夏ひばり
暁空のあまげにたかき夏ひばり