無名戦士大き石となり百合匂ふ
夕顔の月にそむけるあはれさよ
卯の花や兄の書斎に一日ゐて
青蓮をはや夕闇のくぐりそむ
額の花神のともしに青かつし
赤門は古し紫陽花も古き藍
書屋暗く金魚の紅の漾々と
母も遠し父も遠しや夏桔梗
鴨の子はおしやま浮葉の径をゆく
鴨の子は浮葉の径に迷へりき
鴨の子は冒険藺草ふかきところ
鳰の子の三ツあつまり笛を吹く
橋の下闇し河骨の花ともる
高粱はかの夏山の辺にいたる
青高粱は夜を朝としぬ展望車
黍の穂は遠き熱河の山になびく
興亡や千万の蓮くれなゐに
龍階の苔炎天に黄なりけり
玉蟲の羽のみどりは推古より
筍を三つも貰へば重かしり
鑚うつ坑内向日葵の花を見ず
梅を干す白の花魁草が咲く
壕に住む人に一輪のバラを剪る