蜜豆や広告塔のうつる水
降り出して明るくなりぬ杜若
筍に向つて歩む数歩かな
へろへろとあふがれ上る蛍かな
暮れんとす山王台の燕かな
青芒朝の日あたる二三枚
夏山の重畳たるに熔鉱炉
鮎鮓や旅も終りの汽車の中
暑くなる蓴の池を去りにけり
風吹けば白百合草を躍り出づ
鵜の羽のこぼれてゐたる渚かな
垣さうび一重の白をよしと思ふ
みちのくは草屋ばかりやつばくらめ
田植餅どつさりもらひすべもなし
上水に垂れ下りたる新樹かな
押しあひて生つてゐるなる実梅かな
鮎宿の下駄の鼻緒を切らしけり
子供来てまた取つてゆくゆすらうめ
栗の花匂ふお山もありにけり
鮎籠のころがつてゐる厨かな
丹沢も石老山も梅雨ぐもり
山はみな栗の花咲く高尾口
草刈りしあとに蕗の葉裏返る
わが庭に椎の闇あり梅雨の月
亀の子の迷ひ来れり梅雨の宿