南北の夜の通風に祇園囃子
高鉾に揺れつつ笛を吹きやめず
長刀鉾刃に空を截りすすむ
ぎしぎしと船鉾軋む陸行きて
地を歩く鉾の高きにゐし人等
鉾下りて歩み来れる稚児に会ふ
登山バス出づることなき雲に入る
山小屋に寝る二本脚ズボン穿き
夜が明ける濃霧乗鞍依然として
乗鞍の諸嶽ずつぷり霧浸し
双頭の嶽その間を霧通る
雪渓はなだれて吾にとどまれる
完全に吾がもの雪渓真正面
秋晴の赤崖赤を憚らず
秋晴に口開けヨハネカレー市民
川施餓鬼青黛稚児と同舟して
施餓鬼川水晶の数珠ばらけ散る
施餓鬼川死霊は生者より多し
白きもの月輪となる川施餓鬼
ひぐらしの鳴く白川へ入り行かず
蟷螂のずしんと降りし砂の庭
皮椅子の背擦れや冬の美術館
劇中の寒夜水銀剥げ鏡
吾が汽車を見送る寒鴉身を廻し
冬河に新聞全紙浸り浮く