北原白秋

17 18 19 20 21 22 23 24 25

木々の上を 光り消えゆく 鳥のかず 遠空の中に あつまるあはれ

山峡に 橋を架けむと 耀くは 行基菩薩か 金色光に

谷底に 人間のごと 恋しきは 彼金柑の 光るなりけり

二方に 光りかがやく 秋の海 そのニ方に 白帆ゆく見ゆ

煙立つ 紅葉の峡に しろがねの 入江ひらけて 舟はしるなり

麗うらと 日照りさしそふ 秋山に 心ぼそくも 立つる煙か

帆をかけて 心ぼそげに ゆく舟の 一路かなしも 麗らかなれば

金の星 このもかのもの 岨をゆく 彼らは枯草 負ひたる童

松並木 中に一点 寂しきは 金の茶店の 甘酒の釜

大きなる 赤き円日 海にあり すなはち海へと 下りけるかも

引橋の 茶屋のほとりを いそぐとき ほとほと秋は 過ぎぬと思ひき

あなあはれ 日の消えがたの 水ぎはに 枯木一本 赤き夕ぐれ

かくのごとき 秋の寂しさ われ愛す 枯木一木 幽かに光る

那辺より 出で来し我ぞ 行く我ぞ 頭幽かに かがやき光り

秋の色 いまか極まる 声もなき 人豆のごと 橋わたる見ゆ

人はいま 一番高き 木のうへに 鴉鳴く見て 橋わたりたり

一心に 遊ぶ子どもの 声すなり 赤きとまやの 秋の夕ぐれ

藁屋あり はなつるべ動く 水の辺の 田圃の赤き 秋の夕ぐれ

けつけつと 鳴くは何鳥 あかあかと 葦間の夕日 消えてけらずや

金の星 ひとつ消えゆく 思なり 童子幽かに 御寺に入る

和歌と俳句