秋の野に あまりに真赤な 曼珠沙華 その曼珠沙華 取りて捨ちよやれ
二人見て 来むぞ真赤な 曼珠沙華 松の小蔭に ちよと入りて来むぞ
こち向け 牝牛供養の 石が立てり 曼珠沙華の花 赤き路ばた
曼珠沙華の 花あかあかと 咲くところ 牛と人とが 田を鋤きてゐる
童らが 遊ばずなりて 曼珠沙華 ますます赤く 動かであるも
大きなる 大きなる赤き 日の玉が 一番赤く ころがれり冬
田舎道 のぼりつめたる かなたより 馬車あかあかと かがやきて来も
燃えあがる 落日の欅 あちこちに 天を焦がすこそ 苦しかりけれ
藁小屋と 赤くかがやく なだら坂 日をいつぱいに 浴びて親しも
路のべに 遊ぶ童が かぶろ髪 光輪はなつ こぼるるばかり
馬頭観世音 立てるところに 馬居りて 下を見て居り 冬の光に
金色の 赤馬の尻尾 ふつさりと 垂れて静けき 夕なりけり
夕されば 光こまかに ふりこぼす 人参の髯も あはれなりけり
はろばろに 枯木わくれば 甘藷畑 おつ魂げるやうな 日が落ちて居る
目も遥に 嵐吹きしく 枯野原 空に落日が 半分紅く
人ひとり あらはれわたる 土の橋 橋の両岸 ただ冬の風
絹帽 吹き飛ばしたり 冬の風 落日真赤な 一本橋に
転がつてゆく 絹帽を 追つかける 紳士老いたり 野は冬の風
数珠つながり 赤い閻魔を ぐるぐると 廻る童を 吹く冬の風
木がらしに 白髪かきたれ 来る媼 負へる赤子は 石の如しも