玉虫をみちのく紙に置きたれば羽ばたきすなりもの云ふさまに
七月やうすおしろいをしたる風歩み来りぬ木の下行けば
朝がほは芝居のいろの紫も恋の心のくれなゐも咲く
白き梅かひなを伸しくろ髪を被ける君の如く今咲く
わが住める山の続きに神達のあるここちする元日の朝
わが庭はまださへづらぬ小鳥ども起居するなり元日にして
元朝のまだ暗くして柑子の香酒の香混り立つ家のうち
ものの音少し途絶えて元日の悲しきばかり静かなるかな
久方の水色の空背になして極楽鳥の舞へる秋かな
忘られていく年かへし心地しぬ白き芙蓉に向ひ居たれば
秋風の傍へに居るは唯一人われのみのごと涙の下る
ふと心めでたき鳥を飼ふとしぬ雁来紅の尺ばかりなる
日ぐらしの女めくこそ悲しけれ青桐の幹抱きしめて鳴く
あはれともあぢきなしとも恋しとも云ひたげなりやひるがほの花
ひるがほはかづらになりてなびくさへ人のここちす我のここちす
秋の風空のひまより吹くごとし髪の端さへ冷たかりけれ
いみじかる妬みも恋も作りけり若き心と身の熱をもて
富士白し及ばずとしてみどりなる磯草に消ゆ茅が崎の雪
雨降れば幽かに泣けりわがこころ蘆のたぐひか萱のたぐひか
こすもすよ強く立てよと云ひに行く女の子かな秋雨の中
地の上のものの総てを斬りきざむ白刃の如く秋雨ぞ降る
さめざめと皐月の尽くる雨降りて殯の庭に鐘の鳴るかな
橋の上街の土にも置かむ霜あやまりてわが心にぞ降る
雪白く駿河の山に降りたるを叩きに行くと風前を過ぐ