和歌と俳句

若山牧水

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ひとかたまり 菜の花咲けり 春の日の ひかり隈なき 砂畑の隅に

くろぐろと 棕梠の影させり 菜の花の かたまりて咲く 傍らの砂に

向つ崎 真赤き崖に 吹きつくる 風の寒きに 船傾きぬ

岩とびとび 鵜の大群の 浮き沈む 潮騒にして 船傾きぬ

大島の 山のけむりの いちじろく 立つよと見れば 暮るるなりけり

相模の海 月夜浪立ち 片寄りの 黒雲のかげに 伊豆の山燃ゆ

伊豆人は けふぞ山焼く 十六夜の 月夜の風に その火靡けり

停車場の 柱時計を 仰ぎつつ 現なや朝の ストーヴの椅子に

朝づく日 停車場前の 露店に うららに射せば 林檎買ふなり

塩釜の 入江の氷 はりはりと 裂きて出づれば 松島の見ゆ

盛岡の 街か灯ぞ見ゆ わが汽車の 窓に楊の 揺れては消ゆる

樅桧 五葉の松はた 老槙の 並びて春の立つといふなり

啄木鳥の 真赤き頭 ひつそりと 冬木桜に 木つつきゐたり

ほのぼのと 燃ゆる思ひに せんすべの 尽きて眺むる 梢なりけり

城あとの 古石垣に ゐもたれて 聞くとしもなき 瀬の遠音かな

遠山に 消えつつ残る はだら雪 雨のごときを 見る真昼かな

朝まだき 日はさしながら 降る雪を 軒に眺めて 疲れてゐたり

われ待つと 荒野野辺地の 停車場の 吹雪のかげに 立ちし君はも

大吹雪 汽車の小窓の かき曇り 雫垂れつつ 海見え来る