和歌と俳句

若山牧水

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冬近み 入江の海の 凪ぎ細り 荒磯芝山 黄葉しにけり

真冬日の ひかり乏しき 入海に 漕ぎ出づる舟の かぎり知らずも

大潮の 干潮の冬日 したたかに 沖の黒岩 あらはれにけり

たち向ふ 安房の山辺の 山蔭に ひとむら黒き 釣舟の数

遠つ海 水際赤らみ 夕がすみ たなびけるかたに 安房浮びたり

こごしき 安房の岬に 残りたる 夕日あきらかに 冬の浪立つ

横浜に 入り来る船か 煙あげ 入日の崎を 廻り浪見ゆ

芹つみに 妹のさそふに 誘はれて せんかたもなき 野に出でにけり

汝は芹つめ われは野蒜を 摘まましと むきむきにして あさる枯原

春浅き だんだら小田の 畔の木の ゆらぎ光りて 芹つむわれは

梅の花 はつはつ咲ける きさらぎは ものぞおちゐぬ われのこころに

海も狭に 鰯来ると 浦あげて とよめる蔭に 梅咲き盛る

海面の 黒み騒だち 鰯寄る 入江の春の 昼の月影

鰯寄る 細江のそらの うちけぶり 鳶の群れゐて 啼けば悲しき

はしけやし 鰯の網に かかりたる 大鯖の腹の この青鰯

麓より 風吹き起り 椿山 椿つらつら 輝き照るも

疲れしと 嘆かふ妻の 背に額に くれなゐ椿 ゆれ光りつつ

青樫の 蔭の枯草 いざ妻よ 昼食のむしろ 此処に作らむ

枯萱の かげに見出でし 稚梅の 三つふたつ花をつけてゐしかな

松風の こゑのさびしさ 見はるかす 伊豆の遠海 時雨行く見ゆ