和歌と俳句

若山牧水

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曇さびし いま七日たたば 咲かむとふ 桜木立の 蔭を行き行くに

花ぐもり 昼は闌けたれ 道芝に つゆの残りて 飯坂とほし

たわたわに 落つる春田の あまり水 道辺に続き 飯坂とほし

行き行けば 菜の花ばたけ 蝶々の 数もまさりて 飯坂とほし

友ふたり たけぞ高けれ だんまりの 杖をうちふり 飯坂とほし

菜ばたけの すゑの低山 やますそに それとは見ゆれ 飯坂とほし

川ごしに 杉は明るく 並び立ち たまたまにして 鶯啼くも

津軽にて 田打桜と 聞きし花 いまぞ咲きたれ 岩代辛夷

とつとつと 早瀬流れて 咲き垂れし 田打桜は 花雪の如し

君が背に 辛夷白花 咲き枝垂れ その花を背に 君はまだ酔はず

夕かけて 雲は山辺に 流れ来ぬ 桜はいまだ 散るといはなくに

磯節を きけばかなしも 陸奥の 山の奥の唄を きけば悲しも

つばくらめ ちちと飛び交ひ 阿武隈の 岸の桃の花 いま盛りなり

夕日さし 阿武隈河の かはなみの さやかに立ちて 花散り流る