五十嵐播水
重患にかかはり暮れし二月かな
春浅き藪に瀬音や大悲閣
春暁や玻璃との中の長廊下
春昼や布団正しき置炬燵
春昼やほのほのかに匂ふ青畳
春宵や字を習ひゐる店のもの
春月の暈の下なる京都かな
春雨や鉢の切飴色とりどり
春潮に縺るる纜の一ところ
霞みたる四山の中の午砲かな
入学の子に随ひて上洛す
代々の一人娘や雛まつり
曇り来て舞台古さや壬生念仏
その中に妓もまじれる種痘かな
春の旅萎びて甘き蜜柑かな
追はれたる恋猫鳴くや塀の外
燕や短剣つけし御陵守
噴水に水の面の落花漂へり
花の雨張り捨ててあるネットかな