和歌と俳句

河東碧梧桐

瀬戸に咲くの明方の明日の船待つ

人々のひだるうさくらちりくる阪下りてゆく

あちこち桃桜咲く中の山がひの辛夷目じるし

柱によれば匂ふつゝじうす紫の夜の花なる

東駒に西駒のひだの深くに残る雪

大仏蕨餅奈良の春にて木皿を重ね

なつかしき花ミモーザの一本に御手洗をはなれ

土筆かさかさ音を手ざはりを一包み地べた

磯山の日うらゝかな雪解かな

葛城も丸き山なるかな

屯田の父老の家かすみけり

十勝野に我立つと四顧の霞かな

古き梅古き柳や小六条

棕櫚の葉に枇杷の葉に梅の落花かな

朝日さす杉間の花を数へけり

十三塔花七めぐり廻らせる

花屑もかかる隈なき大河かな

棕櫚高く見ゆ千本の花の雲

庭踏むや落花をさそふ通り雨

幕濡れて夕しづまる落花かな

把栗寺や花散りかかる藪表

花一木ありて貧しや把栗寺

落柿舎や花の流れの一またげ

海明りして菜の花に行く夜かな