和歌と俳句

原 石鼎

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恋猫や朧はおこす蘭麝の香

梅二三輪簪のごとし猫の恋

更くる夜々のともし幽しも猫の恋

鶯の羽づくろひ見し小雨かな

きさらぎもちかく馬酔木の花の梗

降りやまんとして卍する春の雪

暁に降り暁にやみけり春の雪

窓ちかく来て巴すも春の雪

上へ上へとあがる雲雀や谷間より

棕梠の毛のくらきところや春の雨

陽炎を畑より曳いて三光鳥

陽炎や底の砂へは水の影

菜畑よりどつと松林へ陽炎へる

陽炎の影にうづもれ二月尽

陽炎をひき流れよる落椿

水の椿浮くところ乾て陽炎へる

花落つるやすぐに新芽の赤椿

窓際に見えゐて木の芽濃まさりぬ

花曇して一霞二霞

向うむく人にや背にも

さざめきて波と寄居虫や夕霞

松の鳶鴉とかはり花曇

崖土をとび出し蜂や花曇

花曇下に八重引く霞かな

見えそむる草のかたちや花曇

蜘蛛の囲に何かつき居り花曇