此花にいろいろの色ありにけり
花の月枝がくれ母の心かも
霞まんとして霞み居り花の春
ひとりでににじむ涙や峰の花
片枝はふれむばかりに花の笠
夕月や花のしがらみ堰きためて
花に霞むや二三枚づつ月の瓣
ひとりゐに心ふと来ぬ花の鐘
紺染を着て几辺や花の留守
煙突の煙ながながと花の雨
花房の滴や花の雨の中
芹は井出に春菊畑に育ちけり
行春やピアノの上の手風琴
春泥にふと来て吹矢ささりたる
潜り門閉ぢたる内や春の芝
若芝のつきしばかりのお庭かな
窓の空を過ぐ燕のけふもあり
指につめば消えなんばかり白菫
さみどりの野に畿ひして桜草
わが入りし温泉壺に春をこの人も
淀屋橋を並びゆきしも花の頃
行春や古炉へまでも花の風
行春や銀座来し人わが前に
夏近しひるめし食ひに農夫達