和歌と俳句

高浜虚子

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二の替古き外題の好もしき

春寒のよりそひ行けば人目あり

我が猫をよその垣根に見る日かな

我が庵をゆるがし落ちぬ猫の恋

麦踏んで戻りし父や庭にあり

足あげて日もすがらあり麦を踏む

麦踏んで若き我あり人や知る

春雪のちらつきそめし芝居前

春めきし水を渡りて向島

皿の繪の漂ひ浮み春の水

草摘に出し万葉の男かな

春宵や柱のかげの少納言

青淵に桑摘の娘の映り居り

早春の鎌倉山の椿かな

恋猫をあはれみつつもうとむかな

夙くくれし志やな蕗の薹

老の手のほとびて白し海苔の桶

てのひらの上よそよそと流れ海苔

棹見えて海苔舟見えず粗朶隠れ

岩の上に傾き置きぬ海苔の桶

や洞然として昼霞

袖に来て遊び消ゆるや春の雪

手に持ちて線香売りぬ彼岸道

芽ぐむなる大樹の幹に耳を寄せ

古椿ここたく落ちて齢かな

春の月蛤買うて仰ぎけり

日輪を飛び隠したる蝶々かな