和歌と俳句

原 石鼎

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一滴の唾もすがり寝の春炬燵

春昼の日傘ひらかば紅ならむ

春さきの音ぞと夜半のまぜをきく

梅一りん椿二輪の庵かな

寒鯉も寒鮒も桶に腹ひろく

遠嶺富士雪げむりして梅の花

よごれゐる壁に咲きつぎサイネリヤ

留守の庵に鶯来かとたづねけり

暁の富士いつまで白き四月かな

ぬりかふる刷毛よりうららはじまりぬ

春の夜の病廊長し白衣びと

白桜満開にして山桜

春といふにはやゆふづつの富士へよる

巣雀の声さへこだましてきこゆ

朝夕の日に巣立ちあふ雀かな

一番子二番子雀巣だちあひ

あきら日に子雀親とまぎれなく

いつとなく子雀の親とまがひけり

大欅しづかにくもり春の蝉

月繊にまことしづけくある二月

二月果てんと左右にゆれゆれ光る星

夜の明けて小雨しばしもきそさらぎ

きそさらぎ天のたまものかずかずに

大天に日車めぐりきそさらぎ

何といふ宵ながながしきそさらぎ