和歌と俳句

春の水

斯く迄に囁くものか春の水 虚子

春水に膝あてがひて伏し濯ぎ 青畝

うしろより見る春水の去りゆくを 誓子

道迷ひつつ春の水渉り 虚子

だき抱へ跳り渉りぬ春の水 虚子

春水に逆さになりて手を洗ふ 虚子

春水やよき妻獲たる古男 草城

岩伝ひ下り来る人や春の水 虚子

春水の石にもつれつほどけつつ 虚子

春水に両手ひろげて愉快なり 虚子

簷の下春水碧く淵なせる 秋櫻子

廊つたふ汀まばゆき春の水 秋櫻子

春水の流れはやくて従きゆけず 波津女

春水の油も塵も河の幅 汀女

峡の昼春水はゆく身のほとり 汀女

春水に映る二階の人逆さ 虚子

春水に日輪をとりおとしけり 朱鳥

かわかわと鴉が外す春の水 耕衣

あひともにかちわたらむよ春の水 万太郎

春水のそこひは見えず櫛沈め 鷹女

春水の水音ひとつ峡を行く 汀女

さからへる手に春水のひびきくる 多佳子

榛名湖の春水堰をあふれ落つ 上村占魚

掌に皺を刻む春水うづたかく 鷹女

岩一つ越えてうちべの春の水 爽雨

岩々の肥えかがやきて春の水 龍太

春水に抜羽浮羽や水禽舎 汀女

春水や一つ浮きたる水馬 虚子

春の水行くのみ古今伝授の間 青畝

春水の眠りを覚ます石投げて 三鬼

春水の一筋ならず馳せて来る 汀女

将軍の数奇まのあたり春の水 青畝

春水の白く抗ふ子等の脛 汀女

うたがひもなき春水の一平ら 汀女

春水にとぎ水白くやがて消え 立子

身を語りゐて春水は流れ急く 汀女