温泉のとはにあふれて春尽きず
春塵をやり過したる眉目かな
老大事春の風邪などひくまじく
下萌の大磐石をもたげたる
春山をすこし上りて四つ目垣
古びたる赤き布団や春炬燵
拜観の御苑雉子啼きどよもせり
春雨の音滋き中今我あり
一点の黄色は目白赤椿
大空にうかめる如き玉椿
葉ごもりに引つかかりつつ椿落つ
林なす潮の岬の崖椿
鎌倉のそこここに垣繕へる
湯に入りて春の日餘りありにけり
垣外を春日遅々と人通り
障子今しまり春の灯ほとともり
花の下那智の聖といふに逢ふ
主亡し花も調度も其ままに
主亡し落花流るる門の川
老の杖とばし転ぶも花の坂
草臥の一日々々や花の旅
浪花出て熊野めぐりて花の旅
突風の吹きて忽ち花曇
春風の心を人に頒たばや
春惜む命惜むに異らず