和歌と俳句

阿部みどり女

つくばひに蕗の薹のせて忘れけり

屋根替の埃の中に立話

屋根替へて煤け障子に住ひけり

花疲れ一つ床几に女同志

歩み来て辛夷の下に話しけり

両側のつゝじ見て入る館かな

裏がへる絵馬一つあり東風の宮

夕東風に舟傾きて進みけり

うつくしき尼にまみえし彼岸かな

苗床にはいりきりなる二三人

一枝にかたまり咲けるしどみかな

病床の裾の小窓や花ぐもり

顔知らぬ人々寄りぬ人麿忌

草の芽や夕日かゞやくゴルフ場

春の水堰きゐる石の下よりも

明らかに花粉とびつぐうらゝか

蝶々にゆれかはりつゝ垣根かな

飾りたる小町のうれひ眉

大風に羽織かむりて田螺とる

連翹の一枝はしる松の中

強東風によしずたふれし茶店あり

手拭の吹きとんでゐる東風の宮

藤色の揃ひ座布団の前

大風に閉ざす障子や蜆汁

枯枝のさし交はしをる椿かな

白鳥の並んで来たる春の水

大いなる門の内より春の蝶

大風によろめきながら汐干狩

いさゝかの埃をたてゝ梅に掃く

ぬかるみの道の狭さよ雛の市

蕨狩して退屈な日を送る

敷き馴れしわが座布団や春の雨

ステッキで叩いてゐるや春の水

沈丁や風の吹く日は香を失す

父の画に母の賛あり初雛

草庵ににはかの客や貝雛

雪掻いて普請はじまる弥生かな

撫子の思ひがけなく鉢に萌ゆ

燈籠のかずかず濡れぬ花の雨

夜桜や遠くに光る潦

渡殿にはりつく花や嵐あと

樹の下に遍路が一人雨やどり