和歌と俳句

高浜虚子

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落椿くぐりて水のほとばしり

もり上りあるところお寺かな

花だより書くひまありし貴船かな

土佐日記懐にあり散る桜

山櫻又現れて来りけり

国境の橋の小さし山櫻

身をよせて西行櫻親しけれ

花篝衰へつつも人出かな

岩の間に人かくれ現るる

川波に山吹映り澄まんとす

学僧に梅の月あり猫の恋

ぱつと火になりたる蜘や草を焼く

我心漸く楽し草を焼く

風の日の麦踏み遂にをらずなりぬ

わが好きの紅梅のある絵巻物

叱られて泣きに這入るや雛の間

春の水流れ流れて又ここに

鯉群れて膨れ上りぬ春の水

草萌や大地総じてものものし

一本の枯木がくれの歸雁かな

のゆるく飛び居る何の意ぞ

大方は泥をかぶりて蘆の角

鎌倉の此道いつも落椿

行平に土筆煮え居る母の居間

落ち込んで鼠の逃ぐるの水