加藤楸邨
水打つて五つの石の日暮かな
夏の雲鸚鵡ひそかにゐたりけり
覗き見る床屋ひとなし西日さす
何もかも瓜まで小さく夢失せき
きのふわが夢のかけらの小向日葵
炎帝の下の五兵衛の名無墓
夜光虫闇より径があらはれ来
鼠出て月をうかがふ青葡萄
市振や隣の間なるつづりさせ
蜩や灯のうつくしき上野行
天草の匂へる闇の終列車
白妙に消え入る葛の走り水
夏雲とあらゆる巌の目鼻かな
桃の香の残りし指や天の川
虎杖に真向くだる天の川
草の穂も星灯るなり出雲崎
銀漢やどこか濡れたる合歓の闇
逆なりに蝉匐ひくだる正午かな
蝉しぐれ中に鳴きやむひとつかな
妻の名を十日呼ばねば浴衣寒し
瓜の市ひとの母子を立ちて見る
手花火の声ききわけつ旅了る