和歌と俳句

上村占魚

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広縁や秋日に透ける猫の耳

城南に展けし原や草紅葉

髪かつて頭ちさき秋袷

ひところの光もさめし秋の川

障子透く日に眼とぢおもんみる

鞴まつり鋳司春治は酔ほうけ

今しがた聞きしの名は忘れ

白菊の中の大輪とけそめし

ゆく秋の園をあゆめば人と遠し

家遠しあへなく曲る冬の川

日野と謂ふ小さき駅に立ちし冬

枯蘆の吹き凹みたる葎かな

消炭の火をみちびきかなしけれ

ひといろの火のゆらぎをる榾の宿

書をふせぬ小春の縁の日にほうけ

ちらほらと村あり紅葉いそぐなり

枯すゝき山の見ゆる日見えざる日

大木の幹に影あり冬日濃し

まともなる雀の顔やの朝

舟の上にわれを立たせてまんじ

初ゆめの枕ならべて灯を消しぬ

笹のしばし揺れゐてはなにけり

ところどころにかけたる畷かな

牡丹雪舟ゆく川の上といはず

遠空の火事のほむらもさめて来し

北風のこの崖にきて逆まける

頭うちふつて肥後独楽たふれける

赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き

六面の銀屏に灯のもみ合へる

虎落笛ねむれぬ病我にあり

凍空に竹ま直なるみどりかな

枯枝をぽきぽき折つてひとからげ

朝の日に笹子きてゐる流かな

車おりてしばらくゆけば笹子鳴く

母の顔ときをりのぞく火鉢かな

大揺に竹ゆれうつり時雨けり

枯草の根かたに雨をふくみをり

寒梅の蕾の真玉さやかなる

蕗の薹つむりそろへし二つかな

蕗の薹ころがるごとく芽をもたげ

早春の額皿の子は頬ふれて

たゝまれし屏風の傍の黄水仙

蛇籠の目大きくあらく春の風

彳めば曇る眼鏡や陽炎へり

撓みたる筧の先の春の水

すぎて雛ある一と間美しく

春愁のはさみ使へば鳴る小鈴

二三茎花もたげたる大根かな

つぶらなる雨のはれまの木の芽かな

なめらかに流るゝ雨の木の芽かな