和歌と俳句

上村占魚

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麦笛や少年の日の思はるゝ

牡丹の日ざしに虫の羽おとかな

畦塗の片がはばかり乾きをり

短夜をねむらんと思ふ眼をとづる

二日月石の動けば蟇となる

まひまひに霽らかゝりたる空模様

まひまひにけだるき風となりにけり

露涼し掌ほどの畠づくり

この三日波大らけく夕つばめ

草むらに掃きすてられしのねむり

火蛾狂ふ針にさすべき糸青き

夕蝉に草むら風をたたみけり

口喧嘩やめて水まく夕空に

蛇苺その下かげを這へる虫

夏帽子浜に見うけし人なれど

紫陽花や輪をとけば散る子らの群

毛虫焼く二人のなかのわだかまり

草茂るいらだちやすく日々を住む

眼けはしく百日紅の下に佇つ

いねがたき手をさしのべぬ蚊帳の外

黒髪の涼しく眼そらしけり

夕顔に酒とほざかることになれ

風をきくうつゝともなき昼寝ざめ

乞食のおもて明るし夏やなぎ

水あまき寺にてありし白はちす

見るうちに吹きあげられし秋の蝶

燕は子となり親となりし朝

旅かなし山より紅の低ければ

水うまき夕を在五中将忌

夏の海遠きは紺の平らけく

紺碧の波にたゝめる日傘かな

舟虫や岩窪の波もみあへる

昼みればにごれる海の薄暑かな

とんぼ釣り道まで追うてきたりけり

章魚突きの巌とびきて岩に消ゆ

章魚沈むそのとき海の色をして

餌をあさりつゝ尾をふれる金魚かな

なにもかも亡びし城の森涼し

遠泳の先着つきし砲を聞く

交りて一茎あかき秋の草

馬追にかすかな月の登りけり

花野きて又しも橋を渡りけり

水澄むや舟の上より網入るゝ

冷やかに青める玻璃の器かな

水菓子に新涼の灯の隈もなき

長月や豆のまきひげ黄に枯るゝ

鳴くやしとゞに濡れし草に月

角箸の灯をあつめたる夜寒かな

をさなきを二人つれ佇つ花野かな

障子たてゝ味噌汁うまき朝かな