春めく灯あすの人参けふ洗はれ
日まはりや永歎きしてうとまるる
来んとする雷雲を呼び誕生日
撥ねる汗鉄の赤き間短かさよ
父が呼ぶ緑蔭に入り眉ひらく
母がおくる紅き扇のうれしき風
健気さが可愛さの妻花柘榴
炎熱や勝利の如き地の明るさ
何事もなかりし如き日盛なり
風涼し雀にまがふ一市民
受洗の子朝顔厩咲き封じ
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま
汐浴びし人の賛美歌海広ら
外光や友亡き者の冬の旅
指細く耳朶薄し寒の旅の中
富士真白水車は小屋へ凍てつきて
雪嶺や肌幾重にもむすびあひ
屋上の雪へ灯おとし倉泊り
冬山くらしうつむき照らす五日月
倉に孤り茶色の冬灯亦孤り
渓音と炬燵のぬくさ絶え間なし
山の冬日射しきて鉢の中に開く
雪負うて倉へ戻りし猫おそろし
昼の闇得し猫の眼と冬ごもり
前山の橇の子眺め戸口の子