和歌と俳句

高野素十

生涯にまはり燈籠の句一つ

朝顔にしぼみ滲みて葉を染むる

四阿の岐阜提灯が揺れてきし

つぎつぎと茗荷の花の出て白き

草市につきし一荷は鶏頭花

大根を蒔いて蛙のとんでくる

この門の木犀の香に往来かな

食べてゐる牛の口より蓼の花

いちめんに菱採舟や潟暑し

菱舟の昼餉時なり潟暑し

尚一つむかごの蔓の立ちにけり

小浅間をつつむ煙や秋の風

一面の露の芝生の一葉かな

大いなる雲の出できし花野かな

糸瓜忌や雑詠集の一作者

の棹枯木の上に一文字

蟷螂やゆらぎながらも萩の上

蓑虫や吹き起されて石の面

大風に荒ぶ芒を刈りにけり

掛稲よりひたと落ちしは青蛙

芒野や浅間の煙吹き下ろす

芒より出で来し山羊の可愛らし