和歌と俳句

高野素十

とんとんと鳴りこつこつと

黄葉は散り紅葉は旺んなり

また一人遠くの蘆を刈りはじむ

蘆刈の戻の堤どこまでも

秋蝶の少き国の旅つづく

日がなゐて葭刈る人のただ一人

むら雀とび立つて居り葭の花

菊つみてはや盛り上る籠の中

上海のけさの寒さの菊の市

病む妻に子のことづけの菊の花

刈上や小菊上げたる仏さま

窓の下かやつり草の花もあり

大いなる蒲の穂わたの通るなり

残菊や添竹はねて風のまま

ふるさとに近づく心末枯るる

流灯に下りくる霧の見ゆるかな

灯籠は粗末に僧は大智識

流燈の遠くも去らず霧の中

人中に西瓜提灯ともし来る

藤豆の咲きのぼりゆく煙出し

新しき笠をかむりてさゝげ摘む

十五夜の野にあかあかと鴨威し