和歌と俳句

高野素十

かご燈籠さげて案内や蟲放ち

蟲の原来てせゝらぎを聞くところ

立ちよるや鳴音かへたる轡蟲

葡萄はこぶ大きな桶のみな古び

落ちて来る棗の小枝ゆるやかに

船員とふく口笛や秋の晴

下闇に袋のままの桃の店

桃青し赤きところの少しあり

少年に鬼灯くるる少女あり

石一つ崩して水を落しけり

稲舟にごとんと音す高音

稲運び飽きし子稲架にぶら下る

稲刈の母目をつぶり乳をやる

夕ぐれの葛飾道の落穂かな

稲刈つて畦は緑に十文字

咳しつつ歩き来る子や稲埃

霊棚の稲穂よろこび玉ふらん

霊棚の稲も大豆も色づきて

小倉山見ゆ境内の紅葉折る

生つてゐて梨の形になつてきし

月に寝て夜半きく雨や紅葉宿

月までの提灯借るや紅葉宿

裏山の日なき紅葉に下りけり