七つの子かたはらに来てわが歌をすこしづつ読む春の夕ぐれ
水色に塗りたる如き大ぞらと白き野菊のつづく路かな
振袖の従妹と伯母とにぎはしく送られて来て序の幕あきぬ
男行くわれ捨てゝ行く巴里へ行く悲しむ如くかなしまぬ如く
海こえて君さびしくも遊ぶらん逐はるる如く逃るる如く
秋の草みなしろがねの竹に似ぬ野分の通るむさし野の原
初恋の日よりつづきてめざましき心の如き紅蜀葵かな
たをやかに笑ふ女の糸切歯しろく尖りて凉しさの湧く
わが取れる紗の燈籠に草いろの袖をひろげて来る蟷螂
さくら散るわが来し方と共に散る涙とともに雨まじり散る
花引きて一たび嗅げばおとろへぬ少女ごころの月見草かな
ものの列来るを見れば横ぎりぬそのことをいと派手に思ひて
わが太郎色鉛筆の短きを二つ三つ持ち雪を見るかな
君と居て百とせなほも憂へずとささやくは誰石の湯槽に
眉引かず香油を塗らぬ素肌をばめでたく映す掛鏡かな
われは猶博士の庫の書よりも己を愛でゝ黒髪を梳く
みづからを愛でんと我は白鳥に身をば仮れるや春の湯の海
たはぶれに眉をひそめぬ自らの素肌を抱く寒き女と
かたはらに睡蓮咲くと誰云ふや湯槽に浮ぶわれの円肩
湯を出し真白き魚の嗅ぎよりぬ玻璃の器の金蓮の花
舞姫のおしろいするも寒からん京の秋かぜ川よりぞ吹く
生来の二重の心二やうに事を分くるがここちよきかな
薔薇咲くしろくはた黄にうす紅に刑の重きは墨色に咲く
門に干す刈草の葉にまじりたる釣鐘草もかなしかりけれ
刈草の青白きをば嗅ぐ如くわれを思ふや三十路してのち